第62章 さようならと言えなくて〜明智光秀〜
ワールホールは私を現代に連れ戻してくれたのだ。
結局、光秀さんとは言葉も交わさずに去ってしまった。
帰ると伝えてどう反応するか、私は想像するだけで怖かった。
だからだろう。
会わずに消えることができて、安堵していた。
久しぶりに帰った現代は居心地が良かった。
美味しい食べ物がたくさんあって。
テレビから流れる映像も
大好きな音楽も
何も変わっていなかった。
それが、何よりも安心した。
剣の音も銃の発砲音もない。
夜も煌々と明るく、
誰とでも気軽に連絡が取り合える。
携帯を開けば、何でも調べられる。
でも…
織田信長は本能寺で自害したままで
明智光秀も
豊臣秀吉も
徳川家康も
伊達政宗も
石田三成も
教科書通りのままで、
私が知っている彼らとは違った。
私は夢でも見ていたのだろうか。
でも、確実に私はあの世界にいたのだ。
消えていた日数だけは、確かにそう私に教えてくれた。