第62章 さようならと言えなくて〜明智光秀〜
佐助くんに会った次の日、私は家康の部屋でお茶を呑んでいた。
いつものように他愛もないお喋りをして。
くだらないと家康になじられ、
私は笑っていた。
「家康、私が居なくなったら寂しい?」
「……別に」
「あは!そうだよね…」
そう言いながら下を向く私を見て、家康がクスッと笑った。
「まあ、うるさいのが居なくなって物足りなくはなるかもね」
「…家康」
私は思わず、側にいた家康の肩に頭を乗せていた。
「ありがとう、家康」
「……葉月?」
「そんな風に言ってくれるの、家康だけだよ」
「何言ってんの…」
何言ってんだろうね。
まるで光秀さんがそんなこと言わないみたいじゃんね。
実際、言わないけどさ。
「家康と仲良くなれて、嬉しかったな」
私は家康に寄りかかったまま、そう言った。
仕方ない様子でため息をついた家康が、そっと私の頭を撫でた。
家康の呆れた笑顔、好きだったな。
きっと今もその顔を私に向けてくれているのだろうと思う。
光秀さんには言えないことも、家康には話せた。
私に出来た、唯一の男友達だった。
お礼の言葉を何遍言っても足らないくらい、家康には良くしてもらった。
ありがとう…家康。
最後も私に優しくしてくれて。
その日の夜、佐助くんに城から連れ出してもらい、私は消えた。
自室に置き手紙を残して…