第61章 続・ある春の日に〜織田信長〜
《天守閣にて…》
毎晩のように天守閣に呼ばれるのも慣れたはずなのに…。
私はいつもドキドキしている。
「ー…葉月、近う寄れ」
そう言われるのが、わかるから。
パブロフの犬みたい…。
勝手に身体が反応してしまう。
今日はどこにキスをされるのだろう…って。
信長様と何もないなんて嘘。
彼はこうやって、私を呼び出して身体のどこかを柔く口づける。
初めは手だった。
次は、おでこ。
鎖骨や耳の時もあった。
でも、それ以上はしない。
私は身体が熱るのを我慢するしかなくて、頭がクラクラした。
信長様は私が手の中で堕ちていく様を愉しんでいるのだろうと思って必死で耐えてきたけど…
もしかして、私が頑なになっていただけなのかな?
「ー…葉月、此方に来い」
しびれを切らし、信長様が私に声を掛ける。
私は迷っていた。
段々と私の中で何かが崩れていく。
もう、抵抗する気がなくなってきているのだ。
私はいつものように信長様の側まで行き、座り直す。
光秀さんとあんな話をしたせいだ。
恥ずかしくて、少し離れて座った。
「もっと寄れ」
「あっ」
信長様が私の肩を掴み、強引に引き寄せる。
体勢が崩れ、信長様の腕の中に閉じ込められてしまった。
「離して…下さい」
「駄目だ」
「…信長様…」
「いや、か?」
嫌じゃない。
嫌じゃないから困ってる。
もっと先を望みだしている自分に。
もっと触れて欲しくなっている自分に…困ってるんです。
「いやじゃない…です」
…あぁ言ってしまった。
私が答えるやいなや、信長様に強く抱きしめられた。
安心する匂い。
もう、信長様の匂いや体温が私を溶かしてしまう。
私がそっと信長様の背中を掴むと、信長様と目が合った。
「葉月…」
名前が呼ばれたのが合図かのように、口づけ合った。
思考を無くさせるような長く甘い口づけに、身体の力が抜けていく。
信長様は口づけながら、吐息混じりに呟いた。
「目を開けろ、葉月…」
え?!
キスの最中に?
「んんんっ」
私が目を瞑ったまま小さく首を振ると、クスッと信長様が笑ったのを感じた。
そう思った時には、私はもう褥に寝かされていた。