第61章 続・ある春の日に〜織田信長〜
「どうした?」
「色々考えたら恐ろしくなってきました」
「気づいていると思うが、信長様もだ」
「…わかってます。そんなに追い込まないで下さい」
「これだけの色男たちに囲まれた、紅一点だ。恨まれても仕方ないな」
「色男って…自分で言います?」
「違ったか?」
…あってますよ。
光秀さんもかなりのイケメンですから。
私が黙ってちょっと睨むと、光秀さんが笑った。
「お前は本当に面白いな」
「面白くありません。普通です」
ちょっと悪そうに笑う、光秀さんの笑顔は良い。
壁を感じるから。
私に踏み込ませない、隙の無さ。
それが心地良い。
「光秀さんって意外と話しやすいですよね」
「そうか。それは残念だ」
全く残念そうには聞こえない軽い口振りで、光秀さんは言った。
「え?なんでです?」
「話しやすいのはな、緊張しないからだ。何とも想っていないから話しやすい。気になる異性には緊張するものだ」
「…そうでしょうか」
「葉月…信長様とは、緊張するのではないか?」
ドキリとした。
信長様はまだ緊張する。
もう怖くはないけど、どうすればいいかまだわからない。
「します。すごく…」
「可愛いな、お前は。それは意識しているからだ」
「やです。意識、したくない」
「恋をしたくないと思っても、思うようにならないのが人間だ。そういう時は諦めろ」
「諦めて…どうすれば?」
「なるようになる。自分の気持ちに素直になるんだな。お前の得意分野だろう?」
「私、そんなに素直じゃないですよ…。それに、長居はしないつもりですし」
「別れが辛くなるから…か」
「はい、そうです」
「その時は俺の胸を貸してやろう」
「〜〜…、光秀さん…本当にやめて下さいって」
何処までも弄ぶ言い方しかしない人だな。
私が反応に困るのが面白いのだろう。
仕方ない人だ。
「恋はいつの間に堕ちるものだ。気づいたら引き返せなくなる…。お前が恋煩いにかかったら、またいつでも話を聞いてやる」
「ありがとうございます…」
優しいは優しいのよね。
私は光秀さんを見つめて微笑んだ。
「…お前も変なやつだな。俺と話して愉しいか?」
「楽しいんです、残念ながら」
私が困ったように言うと、光秀さんは眉を下げて「馬鹿娘だな…」と笑った。
あまりにも優しい言い方だったので、その声が暫く胸に残った。