第60章 ある春の日に〜安土城から〜
「優しいんですね、光秀さんって」
「勘違いするな。その方が利があるからしているだけだ」
「そうなんですか?」
私に優しくして利益ってあるかな…?
私が口に手を当てて考えていると、また光秀さんが笑う。
「すぐ間に受けるのはお前の利点でもあり欠点でもあるな。暫く観察していたが、お前の考えはだだ漏れだ。気をつけろ」
「どう気をつければ?」
「俺みたいな奴に騙されないように…だ」
「え…?」
すると、廊下から力強い足音が聞こえた。
「おい、光秀。お前、何やっているんだ?!」
「…秀吉、もっと静かに歩け。煩いぞ」
「おまっ!葉月の目が真っ赤じゃないか。泣かしたのか?」
「なに、尋問をしていただけだ。間者ではないかを確かめにな」
「葉月が間者のわけないだろう!」
「…秀吉さん…?」
「あ、いや…悪かったな。葉月、お前は間者ではないとは前々から気づいていたのだが、決定的な証拠がなくてな。暫く様子を見ていたんだ。だからな、光秀。こいつは間者ではないぞ。俺が言うんだから間違いない」
「あ、ありがとうございます。信じてくれて」
「数々の無礼、悪かった。これからは何でも聞いてくれ。お前の力になりたいんだ」
「…な?」
「光秀、何が『な?』だ。お前も葉月に謝れ」
「ふっ。相変わらず喧しい漢だな」
「わ、悪かったな!」
「まあ、お前らなら似合いだ」
「「え?」」
「素直な者同士、仲良くしろ。では、この辺で失礼する」
光秀さんは立ち上がりながらぽんぽんと私の頭を軽く触り、微笑を浮かべて去って行った。
「…秀吉さん、光秀さんって不思議な人ですね」
「ああ。あいつとは付き合いが長いが未だによくわからねぇ」
「そうなんですね」
「あら?秀吉様。…葉月様も。日向ぼっこですか?」
三成くんが通りかかり、私を見つけるといつものようににっこりと笑いかけてくれた。
その優しい笑顔をやっと素直に受け止められ、それが嬉しくてわぁっと声を上げて泣いてしまった。