第60章 ある春の日に〜安土城から〜
針子の仕事をやりたいと決めて、今日から仲間に入れてもらったが…針子さん達が苦笑いしながら目線を送り合う様子から、好かれていないのを感じた。
始めは仕方ないよね…。
仲間に入れなくても。
でも、『迷惑だよね』そう言わんばかりの彼女たちの目が辛くて居づらい。
私はそっと抜け出し、縁側で一人ぼんやりと座っていた。
「はあ…」
溜息を零していると、背後に視線を感じる。
静かに此方を見ながら、腕組みをして立っている光秀さんがいた。
う、この人苦手。
だって怖いんだもん。
何もかも見透かされてるみたいで、非常に話しにくい。
「光秀さん、こ…こんにちは」
私は取り繕うように笑顔を浮かべた。
光秀さんは私をじっと見つめ、少し口元を緩めた。
「作り笑いが下手な娘だな」
「え?」
「そんな泣きそうな顔をして、無理矢理笑う必要があるのか?」
「…私、泣いていません」
「そうか?今にも泣きそうだがな」
その言葉に、我慢していた涙腺が緩み出す。
意地悪な言い方なのに、なんでだろう?
嫌な気分にはならなかった。
「…どうした?」
黙ったままの私に手を差し伸べるように、優しい言い方だった。
この人こそ、私を信用していないと思っていたのに。
弱っている時の不意打ちな優しさは反則だ。
だって…泣いちゃうもん。
「ちょっとだけ…愚痴を聞いてもらっても良いですか?」
「…ああ。少しだけならな」
揶揄うような言い方に、やっと笑みが溢れる。
でも、話そうとすると涙が溢れてきた。
「えっと…。えっと」
話したい内容を思い出そうとすると胸が痛んで、ポロポロと涙が流れてくる。
言葉が上手く続かない。
私の話を静かに待つ光秀さんの視線を感じ、深呼吸をした。
「私…き、嫌われてるみたいで」
「…嫌われている?」
「私が勝手にそう思ってるだけかもしれないんですけと、迷惑なんだろうなって。そんな空気感や皆さんの目線で感じて…その…居づらくて」
「何か陰口でも聞いたのか?」
「あ…えっと、いつまでいるつもりなんだろうとか。品がなくて姫様に見えないとかは…以前聞こえました。まあ、その通りなんですけど」
「なるほどな」
なるほどな?
納得されてしまった。