第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
身近な人に恋をすると、後々大変だと私は知った。
光秀さんはこういう時に限って、よく城に訪れる。
逢いたくないと思っていると逢えるなんて…神様は意外と意地悪らしい。
避けることしか出来なくて、私は城に寄りつかなくするしかなかった。
城下に出て、仕立てた着物を届ける。
針子の仕事を増やす。
目まぐるしく動き回り、光秀さんとの接点を減らそう…そうしていないと視界に光秀さんが入ってしまう。
私は自然とみんなを避けるようになった。
光秀さんだけを避けるのは難しかったから。
………
「…最近、葉月は忙しそうだな」
「はあ。俺に言われても。気になるなら秀吉さんが聞けば良いじゃないですか」
「…家康様、私もお寂しいです。葉月様とあまりお話出来ていません」
「三成…俺は何も言ってないけど?」
「ま、そんだけ仕事熱心ってことだろ?良いことなんじゃねぇの?」
「そうか?身体に悪いだろ、あんなに働きっぱなしじゃ」
「…過保護」
武将たちのやりとりを一人離れて聞いていた光秀が、ぽつりと呟いた。
「……まあ、確かに何かおかしいな」
光秀はそう言って、静かにその場を去った。
横目で政宗がその様子を静かに見ていたが、ふっと笑った。
「…へぇ。おもしれぇ」
「何がですか?政宗さん」
「いや?別に」
政宗の口元が徐に上がり、みんなには聞こえないように笑って言った。
「……さあて、どう出るかな?」