第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
帰り道、まだ外は明るかった。
太陽は私の気持ちとは裏腹に輝き、私を落ち込ませてくれなかった。
だから、口角を上げて歩く。
立ち止まったらいけない気がして、足を動かした。
動かさないとその場で動けなくなりそうだったから…。
私は、堕ちていく自分の気持ちを誤魔化したくてわざと鼻歌を歌った。
「ふんふんふ〜ん♪…」
でも、唇が震え、次から次に涙が溢れてくる。
はらはらと涙を流しながら、私は帰り道を歩き続けた。
初恋は叶わないって本当だな。
なんて、冷静に思う自分と。
悲しくて堪らない自分が私の中にいる。
どちらの自分も心の中で抱きしめた。
…政宗の前で泣かなかった自分を褒めたい。
慰めを期待しているみたいで嫌だから。
政宗は、優しいからきっと慰めてくれただろう。
光秀さんへの好意を利用しているみたいで、それは嫌だった。
可愛げのない私は、無駄なプライドが邪魔して一人でしか泣けない。
損な性格だな。
アイツはやめておけ、そう言った政宗。
やめるには…どうしたら良いの?
恋を諦めるには、
もう光秀さんのことを考えるのをやめるには…
どうやったら良いのだろう?
もう習慣のようになっている、心の中での光秀さんへの問いかけやつい想ってしまうこの行為は…もう癖みたいになっている。
これをやめるのは難しそうだ。
思えば…子どもの頃から、私は一番に選ばれたことがない。
大好きだった父ですら、私を置いて出て行ってしまったもの。
それを思い出し、ひゅうと胸が冷えた。
……私、光秀さんには選ばれたかったな。
光秀さんの一番になりたかった。
でも、光秀さんにはもう誰か別の一番がいるのね。
私の一番は貴方なのに。
私を一番にはしてくれないのね。
片想いと確定されている恋は辛い。
苦く、逃げ場がない。
甘い恋をしたかった…。
ー…どうして私じゃないんだろう?
そんな辛い自問自答をして、自分を虐めた。
そうやって心を傷つけることくらいしか、この恋の諦め方がわからなかった。
これが正しいやり方とは思わなかったけれど、そうするしかなかった。