第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
「教えてくれてありがとう」
「礼を言われるようなことはしてねーよ」
「なんで、わざわざ教えてくれたの?安土城内で色恋の揉め事は面倒だから?」
「なんでだろうな。お前が哀しむのは見たくねぇんだよな。なんでかわかんねーけど」
「政宗も私を妹みたいに見てくれてるんだね」
「なんだよ、人を秀吉みたいに言いやがって」
私はクスクスと笑った。
「それ…秀吉さん聞いたら怒るよ?」
「俺はあんなに世話好きじゃねぇ」
「そうかなぁ?政宗も充分世話好きだし、優しいよ?」
私が笑って政宗を見ると、ちょっと切なそうに瞳を揺らして政宗が私を見た。
「…お前は、幸せそうに笑っていて欲しい。お前の笑顔、好きだから」
ドキリとした。
でも、政宗らしい軽い言葉なのだろう。
ー…無自覚で好きとか言うの、やめて欲しいな。
こうやって女の子たちにも言っているのだろう。
たらし具合は…秀吉さんの比じゃないな。
この様子じゃ、政宗に惚れた子達も大変だろうと心の中でこっそり思った。
私は一呼吸して、笑顔を作って政宗を見た。
「…ありがとう」
「また、なんかあったら相談乗るから…。元気出せよ?」
「うん、平気。そんなに好きになってたわけじゃないから」
…嘘。
そんなのは嘘だ。
でも、そう言うしかない。
政宗が心配そうにするから、私はから元気に振る舞うしかないと思ったのだ。
送って行こうかという政宗の有り難い気遣いを断り、私は一人政宗のお城を出た。