第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
そんな私を現実に引き戻したのは、政宗の一言だった。
「葉月…アイツはやめとけ」
すれ違い様、政宗に急に言われて言葉が詰まった。
違うとも
どうしてそんなこと言うの?…とも
何も言えなかった。
有無を言わせない、真剣な眼差しの政宗に私はただ見つめ返す事しか出来ない。
政宗はそれ以上、何も言ってこなかった。
胸が苦しくなった私は、政宗から逃げるように去った。
でも、政宗は意地悪でそんなこと言わない。
それなりの理由があるのだろう。
私はそれから政宗の言葉を何度も思い出してしまい、その度に悲しい気持ちになった。
こんなに気になるなら、「どうして?」って聞けば良かった。
………
「政宗…」
「そろそろ来るかと思ってた」
「え?」
「光秀のことだろ?」
政宗の御殿に訪れた私に、政宗は涼しい顔をして私を迎え入れてくれた。
「…別にお前を否定したくて言ったつもりはねぇよ」
「わかってる。政宗はそんなことしないって。忠告、でしょ?」
「まあな。でも、止められれば止められるほど恋愛ってやつは嵌りやすいからな…。余計なお世話かもしんねぇ。それもわかっている上で言った。光秀とじゃ、お前が傷つくのが目に見えてる」
「どうして…そう思うの?」
「そういうオンナ達を見てきたから…かな?」
「政宗、もしかしてそういう子達の相談とか乗ってたの?」
「んー…まあ、そんなもんかな。光秀はな、本命みたいのは別にいても、そうじゃねぇオンナを何人も抱えられるんだよ。まあ、秀吉もだけど。お前、そういうの無理だろ?」
「…無理…」
「政宗は?」
「俺は本命は作らねぇから良いの」
「もっと酷いじゃん」
「はっ!確かに」
「でも、秀吉さんも…なんでしょ?なんで光秀さんだけ…?」
「秀吉は、情に脆いから…お前だけに絞る日も来るだろうって可能性もあるけど…アイツは…光秀はそれはない」
「なんで?」
「まるで別枠で考えるから。お前が泣かされるのが目に見える。光秀の本命…俺も知ってんだ。あれは別れねーよ」
「……そう」
「わりぃ」
「別に政宗が謝ることないのに」
噂で聞いたことがある。
光秀さんにすごい美人の恋仲がいるって。
あれ、本当だったんだ…。
噂だけなら良いと淡い期待をしていたのに。
噂は本当だったのね。