第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
「そうだな…俺の好む女は、髪は長めで栗色で…」
うんうん。
「可愛らしくよく笑って…」
ふーん。
「すぐ俺に騙されて」
うん?
「…春になると肌荒れするような娘だな」
ん???
「光秀さん、また私のこと揶揄ってます?」
「…おや、自分のことだと気づいたか」
「気づきますよ。もうっ!たまには真剣に答えて下さいよ」
「真剣に答えているぞ?」
「…嘘ばっかり」
「俺はお前に嘘をついたことはないがな」
…それがもう嘘じゃない。
「知りたかったのに。光秀さんの好みの女性」
「…なぜそんなに知りたいか、もう一度よく考えてみろ」
「え?だって、光秀さんには謎が多いから…」
「本当にそれだけか?」
光秀さんに思わせぶりに言われ、心がざわざわした。
変なの。
それだけに決まっているのに。
「ささやかな頭をよく働かせてみるんだな」
「むっ!すぐ馬鹿にするんだから」
「どうした?怒っているのか?可愛い顔が台無しだな」
「〜〜…っ!もう良いですっ」
ずるいよ。
こういう時に可愛いとか言うの。
こうやって、いつも手のひらで転がされる。
それが嫌なはずなのに、心のどこかで心地良さを感じている自分に気づき戸惑ってしまう。
…こんな人を好きになったら、身の破滅だ。
惑わされちゃダメ。
いつもの手だもの。
「…もし、私が気になってるからって言ったら光秀さん困るくせに」
「なぜ、そう思う?」
「わかりますよ、そのくらい。私のことをただ揶揄って、遊んでるだけだから。他でも経験積んでるから勘違いすらしません」
しかも、私にはあり得ない展開だもの。
ドラマや漫画だけの夢物語。
私には、訪れたりはしない。
現代で鍛えられているんですから。
今のだってきっと…。
「お前がしてきた経験など、今はなんの価値もない。俺とは関係もない」
「…?どういう意味です?」
「お前の恋事情など知らん」
「はあ。そうでしょうけど」
「…知りたくもないな」
「え?」
「俺以外にお前を振り回していた奴がいたなんて…な」
光秀さんの手が、私に向かって伸びてくる。
また揶揄っている。
そう思っているのに…。
どうしてこの胸は静まってくれないの?