第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
「では、お前は何を知りたいんだ?」
「簡単に言えば、光秀さんの恋愛事情です」
「…お前は俺と恋愛話がしたいのか?」
「まあ、そんな所です」
「…なるほどな。お前のそこに付いている赤い跡の話でも聞いて欲しいのか?」
光秀さんが首元を指差し、私が俯いて首を手で隠した。
「あっ…これは。なかなか消えなくて」
「秀吉達が騒いでいたぞ。葉月の首に怪し気な跡がある…とな」
「秀吉さん達が?何で?」
「お前の恋の相手が知りたいのだろう」
「意味がわからないのですが」
「お前だって、俺のことを知りたがっていただろう。それと一緒だ。その跡のことを教えたら、交換条件として話してやる」
「…聞いても面白くないと思いますけど」
「それは俺も同じだ」
光秀さんが何を言いたいのかわからず、首を捻った。
そして、みんなが期待している答えとはだいぶ違う真実を告げるしかなかった。
「これ…ただの肌荒れです」
「肌荒れ?」
「春は肌が荒れやすいんです、私。二日前くらいに首にポチッと痒みのある湿疹が出来て、まだ治らないんです」
「それだけか?」
「はい。…ね?つまらないでしょ?」
「予想以上にな」
「…私のせいじゃありませんからね」
「秀吉も無駄な推測をしてくれたものだ」
「じゃ、教えて下さい。光秀さんのこと」
「はあ…わかった。何が知りたい?」
「光秀さんってどんな女性を好きになるのか、です」
「俺の好む女?」
「はい。やっぱり光秀さんと似たような方なのかなぁって」
私は知っている。
学生時代、地味に生きてきた私は…華やかな世界に生きる人は同じように華やかな人と付き合うということを。
目立たない女の子が学校で一番人気者の彼と…なんて展開は少女漫画だけだ。
だからこそ、みんな夢を見るのだ。
現実はそうじゃないと知っているから…。
光秀さんが現代にいたら、スクールカーストのトップに君臨していたに違いない。
光秀さんと同じような美貌を持つ人を探すのは難しいだろうけれど、学校で一番の美人と付き合うのは間違いないだろう。
私とはきっと口も聞いてくれなかっただろうな。
なんとも切ないくらい、自分の立ち位置がわかってしまう。
今、こうして話して貰えるだけ有難いのだ。