第59章 赤い跡をつけて〜明智光秀〜
口元は微笑を浮かべているのに、目の奥はどこまでも冷静で他人を寄せ付けない。
初対面で感じた、光秀さんの印象だ。
光秀さんの冷たい眼差しから、私を信用していないのがわかった。
でも、暫くしてわかったのは…
この人は、誰のことも信用していないのではないかってこと。
それに、自分の事さえも大事にしていないような気がした。
食事の取り方を見てもそう感じる。
この人は、何をこんなに生き急いでいるのだろう…?
冷ややかな目線を受けると、心が凍りそうなくらい辛いのに…目が離せない。
不思議な魅力を持つ人だと思った。
そんな光秀さんの御眼鏡にかなう人ってどんな方なのだろう?
同じように闇を生きる人なのだろうか。
「光秀さんって今までどんな方とお付き合いしていたのですか…?」
光秀さんの部屋で二人きり。
こんな事は珍しい。
まともに答えてくれないことはわかっていても、好奇心には勝てず聞いてしまった。
予想通り、光秀さんは片眉を上げ此方を疑わしそうに見て言った。
「なんだ藪から棒に」
確かに、話の前後も何もなく質問されたら困るよね。
「…そんなことを聞いてどうする」
「別にどうもしません。ただ、気になったんです」
「…ほう」
どうしてこんなに気になるか、わからない。
でも、知りたかった。
光秀さんはそんな私を見て、口の端を上げる。
「そうだな…」
そう言いながら、宙を見上げながらゆっくり指を折る。
あまりにも何往復も指を折っているので、「…何を数えているんですか?」と聞くと、「俺と深い関係になった女性の数だ」と言われ、私は眉を顰めて身を引いた。
「え?なんで?」
「…お前が知りたいと言ったのだろう?俺と突き合っ…」
「ちょっと何言ってるんですか?!そんなこと知りたくないですよ!」
私が叫ぶと、光秀さんが耐えきれず笑い出した。
…あ、また揶揄われたんだ。
やっと気づいた私は、光秀さんを恨めしそうに睨んだ。
「本当に酷いですね」
「…お前はそんなに騙されてばかりで苦労しなかったのか?」
「今してますよ。思いっきり」
「…くくく」
くくくじゃないですよ。
全くもう。