第58章 こんな夜には…〜伊達政宗〜
政宗の御殿で、夕飯を一緒に作った。
私は此処に来てから、ずっと緊張している。
政宗は愉しそうにしているから、きっと気づいていないのだろう。
私はどう振る舞えば良いか、正解がわからず戸惑っているというのに。
「ん!美味いな。ほら…」
調味料を付けた人差し指と中指を差し出され、おずおずと口を開けると「そんな顔、すんなよ」と口の端を上げ、ちょっと悪そうに政宗が言う。
「すっげぇそそる」
「…やめてよ」
私が恥ずかしがって顔を逸らすと、「…なんで?」と色気を放った政宗の声が追いかけて来た。
「私、そういうの慣れてない」
「そういうのって?」
「今、みたいの」
「なんだよ、今みたいのって…。とりあえず、口開けろよ。ほら」
味見のことだってわかってる。
でも、いつもより近い距離に、その乱暴な口振りに、またドキドキと胸が音を立てる。
私が口を開けると、政宗は此方を笑って見ながら更に奥まで指を入れた。
「…舐めて」
政宗の艶のある声がよけいに卑猥に聞こえ、私の中の何かが壊れそうになる。
言われるがまま、ゆっくりと舐めた。
味がわからないくらい、胸が高鳴る。
もう政宗の指の感触しかしないくらい。
「…お前の口の中、あったけぇな。もっと入れたくなる」
私は思わず、口から政宗の指を離した。
「何、言ってるの…?」
「わかってるくせに」
政宗が私が舐めた指を自分の口に入れて「なんか甘いな」と笑った。
「お前も食って良い?」
「え…?」
食う?
「お前を抱きたい」
こんなにストレートに言われたのは初めてで目が丸くなる。
でも、なぜだろう?
政宗が言うと、清々しいくらいに気持ち良い言葉に聞こえてしまう。
そう思うのは、政宗は下心を隠さないからだ。
求められて嬉しいとすら感じてしまう。
「…いや?」
不思議なほどに嫌じゃなかった。
私は首を小さく振った。
「お前も俺に抱かれたいはずだぜ?」
「なんで、そう思うの?」
「だっていつも物欲しそうに見てたろ、俺のこと」
「…ほ、本当?」
「無意識かよ」
「うん…」
「良いな、お前のそういう所。ますます気に入ったぜ」
玄人の意見は素人にはわからない。
でも、褒められるのは素直に嬉しかった。
そう思った時には、もう政宗に抱き抱えられていた。