第58章 こんな夜には…〜伊達政宗〜
現代にいた頃…友達が哀しい時に、夜まで話を聞いてあげながらよく思っていた。
きっとこの子は、私じゃ物足りないだろうなって。
ただ何も言わず抱きしめて、涙を拭いてくれる男の人の方が、この子には今必要なんじゃないか…て。
「大好きだよ」
その言葉は、男の人に言われた方が沁みて、心が救われる日もある。
寂しいけれど、仕方ないのだ。
誰しもそういう時があると思うから。
そう、例えば今の私のようにー…。
その日、私は精神的にやられていた。
そんな落ち込む私に声を掛けてきたのは、政宗だった。
「なあ、飯でも食いに行かね?」
「…ありがとう。でも、今日は良いや」
「なら、俺が作ってやろうか?」
「嬉しい。…そうだね。政宗の美味しいご飯をお腹いっぱいにしたら、眠れるかもしれない」
「…眠れねーの?」
「今日は自己嫌悪と脳内での反省が止まらなそうだから…。多分、寝れないと思う」
「なあ」
「ん?」
「ー…俺が一晩、付き合ってやろうか?」
悪魔の囁きのように、魅惑的な誘い文句だった。
私は人生を何回やり直しても、この誘いを断れないと思う。
それくらい政宗の言葉は私の心を全て持っていった。
私が何も言えず顔を赤くしていると、政宗が私の手を掴んで城を出る。
「どこ行くの?」
「…俺の御殿」
「政宗の…御殿?」
「いや?」
「え、ううん」
そう返事した私を見て、政宗が優しく微笑んだ。
男の人に強引にされるのってあまり好きじゃないのに…。
政宗だと嫌な感じがしない。
そんな様から女の子を誘い慣れているのを感じ、少し寂しくなる。
政宗に引かれている手を見ながら、ずっとドキドキしているこの胸は、驚いているのかときめいているのか。
後者じゃないことを祈る。
近場で恋愛沙汰は経験上、面倒な展開しか浮かばない。
しかもこんなイケメンでモテ男になんて、免疫も何もない。
私がうっかりハマっても、恋人にはして貰えないだろう。
…せいぜい、オトナの友達になるのが関の山だ。