第57章 恋と愛の狭間で〜明智光秀〜
「だと良いがな」
「ふふ、そうですか?」
「だが、お前のことで敵がまた増えそうだ」
敵…?
光秀さんはまた苦笑いをし、私の髪を優しく撫でた。
そんな風に愛しそうに触れてくれる人を光秀さん以外私は知らない。
「早く自分だけのものにしたい。そんな下らん感情が俺にもあったとは…」
「して良いですよ?」
「…全く。意味がわかってから言え」
「わかってますよ」
「ほう。なら試してやろうか?」
「良いですよ」
「勝ち気な小娘だな」
「お互い様です」
クスッと光秀さんが笑い、私も笑った。
心の距離が近くなる度に、愛おしさが込み上げてくる。
「もう恐くないのか?」
「怖くない、です」
貴方に恋に堕ちたあの日から、ずっと願っていたの。
この手にまた触れて欲しいって。
光秀さんとこうなる事をどこかで望んでいた。
初心なふりをしながら…。
「本当はいやらしいかもしれません…私」
「そんなこと、初めからわかっている」
「…なんでですか?」
「俺がそうだからだ。惹かれあったということは、そういうことだろう?」
そう言われ、なぜかすごく照れた。
光秀さんのその余裕さが憎らしいのに、好きだと思ってしまう。
「光秀さんってヤダ」
「……ふっ。嫌いとは言わないんだな」
「嫌いじゃないですもん」
「…なら、好きか?」
「内緒です」
知ってるくせに。
すぐ揶揄うんだから。
「…俺は好きだ、そんなお前が」
胸がキュンとなる。
光秀さんにそんな風に言われて喜ばない人、いませんよ。
自覚あってもなくても厄介だ。
でも、そんな厄介さを上回るくらいの魅力を兼ね備えている。
「…こちらにおいで」
光秀さんは私に手を差し伸べて、微笑んだ。
もう、戻れない。
貴方と手を繋げて進めるなら、きっとそこは…どんな場所だって私は幸せだから。