第57章 恋と愛の狭間で〜明智光秀〜

「葉月」
「はぁ…はい…」
「口づけだけで、頬が染まっているぞ」
「光秀さんが…口づけが上手だから」
「そうか」

目の前にいるのは、いつもと変わらない冷静な光秀さんなのに、瞳の奥は何かを秘めている。
…でも、決してそれを悟らせない。
いつも想いを隠すのが上手い光秀さんと、だだ漏れな私って…本当に釣り合いがとれていないな。

「どうする？もっと先を知りたいか？」
「…もっと…先？」

夢見心地でも、その言葉の意味はすぐにわかった。
私の気持ちを聞いてくれているはずなのに、もう答えは決まっていて、そこに導かれているような気がした。
そういう所が光秀さんらしい。

「きっと痛い…ですよね？」
「そうだな」
「私の身体とか色々見られるの、恥ずかしいです」
「……そうだろうな」
「でも…あの…光秀さんになら…私、何されても良いって思ってます」

恐いけど、すごく恐いけど…。
初めてが貴方となら、きっと。

これが私の本音だ。

すると、光秀さんが軽く息を吐いた。
眉が下がり、困ったように笑う光秀さんの顔は珍しく私は目を奪われる。

「あまり俺を煽るな。優しくしてやりたいのだから」
「え？」
「好きな女を初めて抱く時は、男だって緊張するものだ」
「光秀さんでも？」
「勿論、俺も例外ではない」
「……」
「ん？どうした？」
「ちょっと、安心しました。光秀さんでも緊張するんだなって」
「お前には嫌われたくないからな」
「……私、嫌いになんてなりませんよ？絶対」
「どんなことがあっても？」
「はい。どんなことがあっても」
「…安土城の奴らを裏切っても、か？」
「光秀さんはそんなことしないと思いますけど…、それでも信じます。何か考えがあってそうしているって」
「………そう、か」

きっと、光秀さんはいつも周りのことや先のことを見ているから…自分の立場を悪くしても行動に移してしまうのだろう。
例え裏切り者と勘違いされても。

「それに、光秀さんのことを信じているのは私だけではないと思いますし」

光秀さんは何も言わなかった。
でも、心の何処で光秀さん自身も気づいているんじゃないかな？
…皆に思われていることを。