第57章 恋と愛の狭間で〜明智光秀〜
もう日が暮れて来た。
空が暗くなってくるとソワソワとしてしまう。
そんな私の心を見透かすように、外を見ながら光秀さんが呟く。
「………もう夜か」
「ぇっ!?あ。…そ、そうですね」
私が目を泳がせながら答えると、光秀さんが口を抑えて肩を揺らしているのに気づき、私は目を釣り上げた。
「…ちょっと、光秀さん?」
「………くくく」
「やっぱり笑ってたんですねっ!」
「お前がそのように緊張しているからだ。何を期待しているのか知らないが、別に無理矢理どうこうしようとは思っていない」
「…そうなんですか?」
「まあ、お前が望むなら話は別だがな。だから、安心しろ」
そう言われちゃうと寂しくなるのは何故なのだろう。
応える勇気もないくせに光秀さんから求められたいというのは、我儘なのだろうか。
それに、光秀さんは平気なのかな?
私にその気がないとはいえ、男性なのに。
待たせ過ぎているのは自覚しているつもりだ。
「あの…」
「なんだ」
「光秀さんはそれで良いのですか?」
光秀さんは私の言葉に口の端を上げると、私の髪を長い指先でさらりと耳にかけ、その美しい顔を耳元に近づける。
それだけでドキッとしてしまい、肩が上がった。
「…どう思う?」
「え?」
「耐えるのは慣れている…が、俺にも限界はあるからな」
…そんな風に言われたら、どうしたら良いの?
私が迷いながら上目遣いで光秀さんを見ると、間近にいた光秀さんがふっと笑った。
切長の目が優しげに細まる。
光秀さんはいつも目で語りかけてくるから、私も応えたくなり、光秀さんの着物の端を摘んで言った。
「我慢、しないで欲しいです」
「……お前。俺を試しているのか?」
「そんなこと…っんん…」
光秀さんの唇が吸い付くように私の唇に重なった。
急な展開に驚きながら、私は光秀さんからの口づけをただ受け止めることしか出来ない。
すると、光秀さんの舌がいつもより強引に割って入ってくる。
「もっと唇を開けろ、葉月」
「んっ…ぁ」
舌を入れるキスはまだ慣れない。
恥ずかしいはずなのに、お互いの舌が触れ合うと奥から何かが込み上げてくる。
これが…きっと愛欲なのだろう。
目が潤んでくる。
そんな私に気づき、光秀さんは私から唇を離すと、ちょっとふざけて私の下唇を柔く噛んだ。