第55章 お返しなんて貰っても〜猿飛佐助〜
葉月さんが越後に来て、初めての春。
2人で縁側で話していた時、遠い目をしながら葉月さんが口を開いた。
「佐助くん。ホワイトデーって要らない行事だよね…」
「…まあね。あれはお返しするだけの日だし。律儀にお返しの日を作るなんて、日本人らしいと思う。でも、どうしてそんなことを?」
急にそんなことを言い出したので、俺はやんわり聞いた。
これは何かあったようだ。
葉月さんらしくない、不満げな様子から見て取れる。
「バレンタインデーはわかるよ。好きな人に想いを伝える日。それは良い。…でもさ、ホワイトデーって、別に好きでも嫌いでも何でもない。ただ貰ったので返しますって…それだけだよ?!なんか虚しいじゃない」
…これは…。
「幸村か」
「えっ?」
「幸村、この間渋々あげに来たもんね。信玄様に連れられて。お母さんと小学生の男子みたいに。ほらって促されてさ。そのこと?」
「うん。なんか…言われてお返し買って、それを貰うのって…なんだかなぁって思っちゃったの」
幸村は仕方ない。
慣れていないんだ。
わざわざお返しを買ったことも、渡したことも俺は意外だったけどな。
「…どうして欲しかったの?幸村に」
「え?」
「『はい、葉月』ってスマートに渡して欲しかった?」
「…待って。全く想像出来ない」
「『葉月のことを想って選んだよ』って言って欲しかった?」
「……ううん。違う。本当はね、すごく嬉しかったの。恥ずかしそうに渡してくれたのも。でも、他の子にもこうやってお返ししているのかな、とか無理矢理させて悪かったかなって…なんか考えちゃって」
なーんだ。そういうことか。
「心配いらないよ、葉月さん。幸村は、バレンタインデーなんて知らないんだから。俺たちだけだよ、バレンタインデーやホワイトデーを知ってるの」
「…あ!そうだった。あれ?でも、信玄様は知ってる感じだったけどな」