第53章 優しいだけじゃない〜豊臣秀吉〜

「なあ、政宗と何の話してたんだ？」


政宗の言っていた通りだった。
秀吉さんも余裕があるように見えて、違っていた。

秀吉さんに両手を抑えられ、身動きが取れない体勢にされてやっと実感する。


…しかも、私と同じで嫉妬が怒りに変わる厄介なタイプだ。

秀吉さんの目の奥に、返答に寄っては噛み付かんばかりの気迫がある。
夕餉の前も後もいつも通りだったのに、秀吉さんの部屋に入った途端激しく口づけされ…今は羽交い締めされている。

あ、怒っているんだ。
咄嗟にそう感じ、私はされるがままにされていた。
こういう時は大人しくするのが正解だから。

「…政宗とは、別に何も…」
「へえ？」

あ、間違えたかも。
秀吉さんの顔がますます欲と怒りに支配されていく。

息ができないくらい、乱暴な口づけに私の思考は遮断された。

「ひ、秀吉さ…」
「今日は待ったはなしだ。悪いけど、とまらねぇ」

いつもと違う雑な言葉遣いなのに、何故かゾクゾクしてしまう。
私ってやっぱり変な人間みたいだ。

もっと甚振って欲しくなってる。



…でも、秀吉さんがなんだか辛そうに見えて私はそっと背中を抱きしめた。
秀吉さんがはっとしたように私を見て、眉が下がった。


「…悪い。俺…お前をめちゃくちゃにしてしまいそうだ」
「いいよ。秀吉さんの好きにして…」
「煽んなよ、俺…お前が思うより優しい人間じゃねぇ」
「だから、それでもいいよ。私、秀吉さんになら何されても平気」
「…葉月」

そう、なんなら殺されたって構わない。
おかしいでしょ？

だから、秀吉さんの嫉妬なんて可愛いもんだよ。


「可愛い、秀吉さん。私、もっと好きになったよ…秀吉さんのこと」
「…っ、お前」
「ふふ。優しくないちょっと乱暴な秀吉さんも好きだな、私」

楽しそうに笑う私を見て、秀吉さんはため息を吐いた。

「敵わないな、お前には」
「そんなこと、ないよ」

秀吉さんにはありのままでいて欲しいだけ。
変に我慢したり、無理して欲しくない。

…私みたいに。


「優しいな、葉月は」

優しい仮面を被っているだけだよ。
だって、私は…。


優しいだけじゃないから