第53章 優しいだけじゃない〜豊臣秀吉〜
「良いこと教えてやろーか?」
「なに?」
「余裕がないのは、お前だけじゃないはずだぜ」
「…え?」
「さっきからすげぇ目で見てる、秀吉が」
「うそっ!」
「馬鹿、目線は俺のままでいろ。気づかないふり、しとけ」
「…なんで?」
「男の嫉妬なんてかっこ悪いだろ?知られたくねーよ、普通は」
「そうなんだ。でも、政宗と私なんて心配いらないのにね?」
「……さあなぁ」
「さあなって…」
「俺はいつでも良いぜ。さっきも乗り換えるかって聞いただろ?」
「冗談かと思ってた」
「そんなくだらねー冗談言わねぇよ。喜んでお相手するぜ。だから、余裕持っていけよ。いつまでも待っててやるから。お前の後ろには俺がいる、絶対に。だから、お前は大丈夫だ」
すごい殺し文句だ。
でも、口説いているんじゃない。
政宗は励ましてくれているんだ…私を。
「…うん、ありがとう」
でも、そんなこと言われたら勘違いしちゃいそうになるよ。
私、そういう男女間の戯れに慣れてないから自惚れてしまいそうになる。
それでも…嬉しい。
そうか、心配しているのは私だけじゃないのね。
きっと秀吉さんも。
そう思ったら、少し気持ちが晴れた。
政宗は、気づかせてくれる。
私にいろんなことを。
「政宗と友達で良かった」
「…お前、さっきの俺の話聞いてたか?」
「うん。励ましてくれたの嬉しかった」
「……っ!?ははっ。お前ってやっぱおもしれぇな」
「え?面白かった?」
「いいよ、いいよ。友達でいてやる。暫くは、な」
私の頭をポンポンと優しく撫で、「帰るか、飯の支度でもやろうぜ」と政宗に誘われ、私たちは帰った。