第53章 優しいだけじゃない〜豊臣秀吉〜
秀吉さんを求めてしまうから。
彼が気づかないことにも気づいてしまう。
あの子は、好意を向けている。
優しげに笑っているけれど、違うって。
ひねくれているからこそ、わかってしまうのだ。
きっと…。
貴方を奪いたいんだって。
さっきから秀吉さんに話しかけている商家の娘が視界に入り、気が気じゃない。
いつものように秀吉さんは優しい笑顔を絶やさないから、余計に不安になる。
恋愛がこんなに苦しいと思わなかった。
甘くて幸せで、毎日が愛に満ち溢れているものだと思っていた。
付き合ってからの方が休まらない。
どうしたら良いのか…わからない。
そんな顔面蒼白な私に気づき、政宗が私の両肩を掴んだ。
「葉月、深呼吸しろ」
「深呼吸?」
「眉間に皺。それと顔色が良くねぇ。…ちょっと落ち着け。もっと信じてやれよ」
「…秀吉さんを?」
「はっ、あんな奴信じんなよ。お前をだよ」
「…私?」
「秀吉が選んだのはお前だ。それは紛れもない事実だろ。そのお前自身を信じてやれよ」
「…どうやって?」
「俺は、どうして秀吉がお前を選んだかわかるぜ?」
「……え」
「素直だろ、お前」
「素直…かな?」
「顔に全部出る。嬉しい、悲しい、怒り…隠し事が下手。癒されるんだよ、お前といると。ホッとする」
…癒される?
本当に?
でも、柔らかく微笑む政宗の瞳の中に嘘はない。
慰めで言ってもいない。
それはわかる。
「…ありがとう」
「半信半疑って顔」
「えっ」
「当たりか。…な?顔に出るだろ?」
政宗におでこを突かれ、私は胸がキュッとなった。
危険だ…これ以上、二人でいるのは。
でも、政宗が私を見たまま視線を外してくれない。
私も、意識してるのがバレそうで視線が外せない。
暫く、二人で見つめ合っていた。
でも、政宗の目を見ていたら『お前は大丈夫だ』そう言われているみたいで、元気が出てくる。
私が微笑むと、政宗の目が見開き視線が外された。
「…ずりーな、お前」
「え?」
「俺の負けだよ」
「さっきの勝負だったの?」
「まあな。元気出たか?」
「うん…ありがとう。政宗」
もう、悩みすぎない。
私は私を信じよう。
政宗が褒めてくれたんだから。