第53章 優しいだけじゃない〜豊臣秀吉〜
「嫌なら嫌ってそう言えよ」
城下でいつものように囲まれている秀吉さんを遠くから見ながら、政宗が言った。
「そんなこと、言えない」
「良い子ぶんなよ、お前…目が殺気立ってるぜ?」
私は政宗をちょっと睨んだ。
政宗って本当に…。
一番気づかれなくない所を気づく。
私は心の中で秀吉さんの近くにいる女の子たちにまた黒い感情を抱いていた。
嫉妬とか、可愛いものじゃない。
どろどろとした、憎しみに近い感情だ。
「政宗、嫉妬深い女の子嫌い?」
「…別に」
「別に…何?」
「ふっ。いーや、嫌いじゃねーよ?」
「嫌な間を空けて言うのね」
「お前に嫉妬されるなら、光栄だからなぁ。なんなら俺に乗り換えるか?」
…慣れてるなぁ、女の子の扱いに。
そうわかっていても、内心少し嬉しい。
政宗は、優しさで言ってくれてる部分もあるってわかるから。
口先は軽くても、この人は真から優しい。
政宗は、私が本当は秀吉さんが思っているような優しい女の子じゃないのを知ってる。
知ってて、知らないふりをしてくれている。
それに救われている。
…私はいつも、政宗の存在に救われている。
「…お願いしようかな」
「は?」
「なーんて、ね」
嫉妬ばかりする自分に疲れる。
そんな自分が嫌になる。
モテる人と付き合ったことなんてないから知らなかった。
人気者との交際は、こんなにも心が休まらないのだろうか。
私は、きっと疲れているんだ。
「…お前、マジで大丈夫か?」
「へへ」
「へへって…」
「政宗はいつも優しいな。大丈夫だよ」
優しいから…
揺れちゃいそうになる。
支えて貰いたくなる。
一番悪い女のやり方だ。
なんて浅はかな、お手軽な女だろう。
他の男に逃げたくなってる…。
最低だ。
「私、今の私が嫌い。嫉妬ばかりして、余裕なくて…下らないなって思う」
「人間らしくていいじゃねーか。そんだけ惚れてるってことだろ?」
…そうなのかな?
ただ、自分だけのモノにしたいだけなんじゃないかな?
だって、愛は与えるものなんでしょう?
私、ずっと欲しがってる。
秀吉さんの愛を。