第53章 優しいだけじゃない〜豊臣秀吉〜
「あっ。待って、秀吉さん」
「どうした。恥ずかしいのか?」
…可愛い過ぎる、葉月
口づけの最中、私の耳元で秀吉さんが吐息混じりにそう囁く。
急に男になる、秀吉さんのギャップについていけない。
さっきまで優しいお兄ちゃんだったのに。
二人きりの時は、まるで別人で。
色男そのものになる。
「ぁっ…秀吉さん、ダメ」
「…駄目じゃないだろ?」
頭の片隅ではわかっている。
ダメと言えば言うほど、この人が止まらなくなることを。
それなのに言ってしまうのは…。
ー…きっと、やめて欲しくないからだ。
女はいつだって強かで。
頭が良い。
計算して、可愛げある行動も発言もできる。
それが得意な人と不得意な人がいるだけで、女の子は小さな頃から学んでいるのだ。
男の子への媚びや喜ばし方を。
秀吉さんの前にいる私は、本当の私なのだろうか?
好かれたくて演じている部分があるのは否めない。
私は、秀吉さんが思っているほど純情じゃないし女の子らしくない。
可愛げは…本来ないと思うの。
それなのに、「可愛い」「優しい」と呪文のように言われ、そう振る舞う癖がついたのか、そうなってきたのかはわからないけれど…秀吉さんに出会ってから私は変わった。
それが良いか悪いかはわからない。
でも、秀吉さんが喜んでいるから…きっとこれで良いんだ。
そう思うのに、どこか後ろめたい気がするのはなぜだろう?
いつか、私が秀吉さんが思っているような女の子じゃないと気づいたら…。
どう思うだろうかと不安が過るから。
いつも秀吉さんの周りにいる女の子たちが、強かで狡い子がたくさんいるってわかるのは…私もあの子たちと同じだから。
あのおっとりとしたように見せている子も。
性格良さそうに話す子も。
無邪気そうにくしゃくしゃっと笑うあの子…あれが一番厄介。
…そう、冷静に観察して心の中で毒ついているなんて。
きっと、秀吉さんは一生わからないだろうな。
そんな下らない女の子に盗られるくらいなら、殺してしまうかも…貴方を。
そこまで考えているだなんて、絶対に知らないでしょう?
…女って本当に恐ろしい生き物だね。