第51章 約束〜明智光秀〜

信長様が静かに手を上げ、私たちを制した。

「…全く。痴話喧嘩なら他所でやらんか」
「申し訳ありません」
「まあ、良い。面白いものが見れたからな。…葉月」
「は、はいっ！」
「俺が以前口にしたことは忘れろ」
「…え」
「幸せになれ、葉月。嫁ぐ時は織田家の姫として出してやる」

信長様の言葉に胸がいっぱいになり、
「……信長様。近くに行っても良いですか？」と聞いていた。

「葉月…それは…」
「良い、光秀。…なんだ、葉月。此方へ来い」


私は信長様の近くに行くと、
「これは親愛なる人への感謝の表現です」
と言って、そっと両手を広げて信長様に抱きついた。

光秀さんがふっと呆れたように笑っているのを背中で感じながらも、私は涙を流してそのまま信長様に話しかけた。


「…信長様、ありがとうございます」
「お前の故郷は奇妙なことをするんだな」
「母によくして貰った『ハグ』です。…ただいま帰りました、信長様」
「よく戻ったな、葉月」


なんでこんなに良くしてくれるのかわからない。
でも、本当に有り難くて泣けてきた。
こんな深い愛を向けられたのは初めてだったから。

ただ、感謝しか出来ない。


…そんな私たちをただ静かに光秀さんが見つめていた。




…………


光秀さんの御殿に着いた時、私は聞かずにいられなかった。


「光秀さん、信長様になんて言ったんですか？私たちのこと」
「…教えてやろうか？」

あまりにも悪そうな顔で言われ、私は咄嗟に「い、良いです」と震えて答えた。
…そんなの、怖くて聞けやしない。



「さて、お前が消えた訳は察しがついている。どうせ一人で思い悩んだ結果だろう？」
「…はい。それに…光秀さんには他にも女性がいると思っていたので、ずっと」

「待て。何でそうなる？」
「だって…以前に女性の匂いが…」
「仕事だ。それぐらい察しろ」
「そんなの無理ですよ」
「仮にもそんな相手がいたら、匂いを消してから逢いに行く」
「…っ！酷いです」
「仮にと言っているだろう。話を聞け」
「嫌です、光秀さんは。すぐ意地悪言うんだもん」