第51章 約束〜明智光秀〜
[蘭丸side]
葉月様は、安土城のみんなの癒しだ。
みんな葉月様が大好きで、大切に想っている。
邪な想いを抱えているのは、信長様だけではい。
それがわかるから、敢えて言ったのだと思う。
葉月に手を出すな…と。
牽制だ。
それがなくたって、俺は眺めていただけで良かったけれど。
きっと、諦めた人もいただろう。
葉月様は、このことを知っているのだろうか?
もし、それを知ったら…
どうするのだろうか……?
…………
「…葉月様?どうしたの?もうすぐ夕餉だよ」
城から出ようとしていたのか、ビクッと葉月様の身体が跳ねる。
外から帰って来た俺がすれ違い様に声を掛けると、慌てたように何かを後ろに隠す。
何処に行くつもり?もう日が暮れているというのに。
「な、なんでもないの。ちょっと…用があって」
嘘をつくのが下手な葉月様は可愛い。
でも、あまりにも挙動不審だ。
後ろに持っているのは…荷物?
『かばん』と呼んでいた葉月様の大切な物だ。
もしかして…
「お願い、蘭丸くん。私に逢ったこと誰にも言わないで」
「良いよ、誰にも言わない。でも、逃げるなら此処からじゃ危険だよ。俺が教えてあげる」
「え…っ」
「こっち来て」
俺は葉月様の小さな手を握って、走り出す。
城を抜け出すと、人目を避けるように暗めの路地に連れて行った。
「…何処に行くの?城からは誰も見られずに出れたけど他に行く所、あるの?」
「あ、あるよ…」
「嘘。ないくせに」
「蘭丸くん…」
「言ったよね?俺は葉月様の味方だって。忘れちゃった?」
「…もちろん、覚えてるよ。でも、迷惑かけたくなくて」
「何も言わないで葉月様が消えちゃう方がイヤだよ」
「ごめんなさい…」
「大丈夫だよ、泣かないで。俺が助けてあげる。ね?だから安心して」
涙を拭って、葉月様は笑った。
俺はそんな葉月様の手を取り、山へ山へと奥深くに連れて行く。
…申し訳ありません、信長様。
裏切ってばかりで。
でも、この人を守ってあげたいんです。
顕如様の所へ…身を隠せる場所へ。
俺は走った。