第51章 約束〜明智光秀〜
夜も深くなってくると、襖の外で控えめに名前を呼ばれる。
「葉月…」
光秀さんだ。
彼とは言葉なんて殆ど交わさない。
ただ、夜に私の部屋にこうして来て。
褥を共にして帰って行く。
いつだって急だ。
次はいつ来るかも知らされず、約束も何もない。
あれ以来、光秀さんは約束をしてくれない。
私が襖をゆっくり開けると、まるで何かに追われているかのように私の部屋に入って来る。
光秀さんは襖を片手で閉めて、もう片方の手で私を抱き寄せるとピリッとするような熱さで唇を塞ぐ。
「はっ…ぁ。光秀、さ…」
「…早く抱かせてくれ、葉月」
苦しいくらいの口づけの後、倒れ込むように私を褥に誘導する。
思考なんてもう、ままならない。
光秀さんの言われた通りに動くだけ。
なんてダメな女だろう。
あなた以外とはもう。
夜は越せない。
もう、二度と。