第51章 約束〜明智光秀〜
寝ながらも誰かの気配を感じて目を開けると、男の人のシルエットが見えて飛び起きた。
光秀さんが布団の横で静かに座っていたのだ。
「うそ!どうして…っ」
「起こしたか。遅くなって悪かっ…」
私は咄嗟に光秀さんの首に腕をまわして、抱きついた。
逢えた嬉しさで、私はありったけの力で抱きしめる。
光秀さんはふっと笑い、とんとんと私の背中を落ち着かせるように優しく叩いた。
「…遅くなって悪かったな。これでも早く帰って来たんだが」
その時、光秀さんからふわっと香ったおしろいの匂い。
それが鼻をかすめ、まるで胸がナイフで切り裂かれたように痛みを感じた。
やっぱり、女性に逢っていたんだ。
紛れもない事実が突きつけられ、胸が詰まる。
上手く息が出来ない。
私は黙ったまま、また強く光秀さんを抱きしめた。
「…葉月…?」
本当は聞きたいことがいっぱいある。
どうして一番に逢いに来るなんて言ったの?
今までいったい何処で何をしていたの?
…本当は、誰か想っている人がいるの?
私は知らない。
何も知らないの、お城以外での光秀さんのこと。
でも、こうして逢いに来てくれた。
それだけで良い。
何も知らなくていい。
私、あなたがいてくれたら
生きていてくれたら
もう、それだけでいい。
「おかえり、なさい…光秀さん」
好きじゃなくていいの。
今だけでいいから。
「…泣いているのか、葉月」
「光秀さんに逢えて、嬉しくて…」
光秀さんは私を身体から離して、指先でそっと涙を拭う。
「…葉月、ただいま」
そのまま柔く甘い口づけをされ、深い口づけになりそのまま褥に寝かされた。
光秀さん、本当は怖いの。
でも、優しく指先から私に触れる光秀さんを拒めない。
…愛して欲しいだなんて、そんなこと言えない。
せめて今だけは、愛されているかもしれないと錯覚させて。
惑わすことの上手な光秀さんの手で。
勘違いでもいい。
堕ちていきたいの、何処までも深く。
もう這い上がってこれなくても悔いはない。
あなたになら、地獄に堕とされても構わないから…。
ー…もっと深く、あなたを感じたい