第51章 約束〜明智光秀〜
蘭丸くんは私の部屋に着くと、すぐ布団を用意してくれた。
「着替えられる?そのまま寝るより夜着に着替えた方が休まると思うけど…」
「うん、ありがとう。蘭丸くんって意外と面倒見が良いよね。お布団も、ありがとう」
「へへ、どういたしまして」
「優しいよね。頼りになるし」
「葉月様…そんなに俺に甘えちゃって。もしかして俺に着替えさせて欲しいの?」
「…っ?!」
私が驚いて目を見開くと、蘭丸くんがクスクスと笑い「冗談だよ」と言った。
「良かった。さっきよりは顔色が良くなったね」
「…蘭丸くんもそんな冗談言うんだね」
「ふふ、まあ半分本気だけど」
「……え?」
「なんてね。でも、あんな風に隙を見せたら危ないよ?酔ってる葉月様は色っぽいんだから」
「い、色っぽい…?」
「ほら、俺は行くから今日はちゃんと休みなよ。宴の準備で疲れたのかもしれないし。
…まあ、ずっと信長様のお相手してたしね。
あ、ご馳走たくさん作ってくれてありがとう。すっごく美味しかったよ」
蘭丸くんはそっと私の手を握り、ちょっと切なげに微笑む。
「蘭丸くん…?」
「じゃ、俺は行くから。おやすみ」
「うん、おやすみなさい。本当にありがとう」
蘭丸くんは可愛らしく小さく手を振って、部屋を出て行った。
私は少し息を吐き、着替えを始めた。
帯を解いた時、解放された心地よさと悲しみが急に襲って来てどさっと布団に倒れ込んだ。
…夜が終わってしまった。
涙が出そうになる。
でも、下唇を噛んで我慢した。
泣いても仕方ないもの。
そう思い直し身体を起こして、夜着に着替えた。
明日はもしかしたら来てくれるかもしれないよ?
そんなことを私の中の誰かが囁く。
まだ期待を捨てきれない自分に呆れてしまう。
着替え終わると横になり、ぎゅっと布団を掴む。
「…もう寝よう」
そうだ。
夜に待っても連絡など来るはずない、この時代に起きていても仕方ないのだから。
我慢していたはずの涙が勝手に溢れた…。