第50章 抱きしめて欲しくて〜豊臣秀吉〜
目が合うと、優しく微笑み返してくれて。
私の寂しいのサインだと読み取って、秀吉さんは何も言わずに夜になると自室に来てくれる。
今日もそうだ。
私の部屋に入った途端、大きな身体を屈めて顔を覗き込む。
「葉月、大丈夫か?今日は何があったんだ?」
「……何もないよ。大丈夫」
「また寂しくなったのか?」
そんな風に心配そうに言われると、胸が締めつけられる。
違う。
違うんだよ。
本当は毎日寂しいの。
でも、毎回だなんて図々しいから…日にちを空けてどうしようもなく寂しい日にしか目を見て誘うことが出来ないだけ。
こうやって頭で考えて行動している時点で浅ましく、秀吉さんを利用している気がして、ほとほと嫌になる。
秀吉さんの優しさにつけ込んでいる…そんな自覚があるから。
「俺が側にいてやるから…」
大きな手のひらで頭を撫でられ、涙腺が緩む。
違うよ、秀吉さん。
あなたの心がわからなくて寂しいんだよ。
側にいてもわからないんだもん。
秀吉さんが何を考えているかわからないだもん。
優しさの割には度が過ぎてるって、つい心の中で秀吉さんを責めてしまう。
でも、そう仕向けているのは私なんだよね。
秀吉さんは悪くない。
「また朝まで居てやるから」
布団に寝かせ、後ろから抱きしめてくれる。
いつもこうして私を温めてくれるのだ。
秀吉さんの身体は鍛えられているのが背中越しから伝わる。
いつも体温が高くて、きっと心も温かいからこんなにあったかいのだろうと冷たい自分の手を握りしめながら思っていると、秀吉さんの手が私を包む。
「秀吉さん、あったかい…」
「そうか?まあ、冬はちょうどいいけどな、夏は大変だよ。…なんで葉月はいつもこんなに手が冷たいだろうな」
心が冷たいからかも…。
そう思いながら、丸めていた足を伸ばして秀吉さんの足に自分の足をちょんとつける。
「……うおっ!?冷てえ!」
「へへ、足はもっと冷たいの」
「こら、冷えたぞ」
「…ふふ、ごめんなさい」
くすくす笑うと「全く、こいつは」と、ギュッとさっきより強く抱きしめられる。
…もうこれ以上、くっつかないで。
嬉しくてにやけてしまいそう。
でも、次の日の夜のことを考えてしまい、そんな落差で切なくなる。
…私は贅沢者だ。
そう思いながら、瞼を閉じた。