第50章 抱きしめて欲しくて〜豊臣秀吉〜
日が出る前には布団を出て、秀吉さんは行ってしまう。
その冷静な後ろ姿を見るのが怖くて、私はいつも寝たふりをする。
すっと布団を出る秀吉さんに、迷いはいつも感じられない。
名残惜しむ感じすらない。
…もう暫くは、一人で寝なくちゃいけない。
泣きそうになっていると、優しく頭を撫でて去って行く。
襖が遠慮がちに閉まった時、やっぱり帰ったんだと毎回思う。
当たり前だ。
みんなに誤解されちゃうもの。
褥から出ると、私に見せてくれた悪戯っぽい秀吉さんはもういない。
みんなの知っている、優しい温和な秀吉さんになっている。
私とのことなど、まるで感じさせない。
何事もなかったように振る舞ってくれる。
大人なんだ、彼は。
子どもなのも、顔に出てしまうのも私だけ。
そんないつもの秀吉さんに会うのが恐い。
やっぱりなんとも思われていないと確認してしまうのも、感じるのも恐い。
…このまま布団ごと沈んで闇に葬られたい。
秀吉さんの温もりのない日々なんて、生きている意味なんてないから。
最近は口づけさえも、してくれなくなったな。
そんなことを考えたら一雫の涙が流れ、また目を閉じる。
朝なんて来なければ良い。
ずっとずっと眠っていたい。
このままずっと…。
夢の中では、私と秀吉さんはずっと一緒だから。
優しく好きだよと囁いて愛してくれる。
そんな都合の良い夢を見よう。