第49章 気づいてよ〜蘭丸〜
確かに好きだった、秀吉さん。
いつだって優しく頭を撫でてくれて、寄り添ってくれて。
でも、それはあくまでも兄貴的存在としてだから。
多くを望まずにきたのに…。
一度、私から抱きついた。
酔ったふりをして。
なんだか寂しくなって、温もりが欲しくて。
でも、秀吉さんは困った顔をして笑っただけだった。
それを見て気づいたんだ。
あ、ダメだって。
それからは私、ちゃんと妹としての立場を全うしてきたつもりだ。
それなのに…。
「どうして、蘭丸くんは気づいたんだろう?」
………
「そんなの、お前が好きだからに決まってんじゃん」
「……はぁ、何言ってるの。慶次」
蘭丸くんに断られた後、城下に一人で行こうと歩いていたら、偶然現れた慶次が付き合ってくれたのだ。
私がぽつぽつと蘭丸くんとのことを話すと、あっけらかんと言われ私はがっくりとくる。
「そんなわけないじゃない。蘭丸くんだよ?」
「…おい。蘭丸も男だぞ」
「わかってるけど、みんなの蘭丸くんって感じだし…あの子は恋とか無縁な気がするけどな。みんなに優しくて、朗らかで」
「あり得ねーってか?」
「うん…それはないよ」
そう言うと、慶次は私を見て気の毒そうな顔をした。
…なんて失礼な目をするのかしら。
「何よ、その目は」
「お前、今まで男いなかっただろ?」
「…なっ!蘭丸くんの話と関係ないじゃない」
「これだもんな。そりゃあ、気づかせるのに骨が折れる筈だな…」
「……?」
「なんでもねーよ。というかさ、秀吉狙いだったのかよ。お前」
「もう諦めたもん」
「…あーあ。秀吉、お気の毒に」
「ん?」
「いや、なんでもねぇ」
そう言うと、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、大きな猫目で優しく私を見た。
「ま、気になるなら本人に直接聞けよ。お前、蘭丸と話したくてうずうずしてんだろ?」
「…うん、最近構ってくれなくて寂しいの」
「ふーん。それは残念」
「え?」
「いや、頑張れよ。また話なら聞いてやるからさ」
そう言って、ニカッと傾奇者らしく笑って背中をバンと叩いた。
…痛い。
でも、ありがと。慶次。
慶次と一緒に買った金平糖を抱えて、私たちは城に帰った。