第49章 気づいてよ〜蘭丸〜
「蘭丸くん、いる?」
私が蘭丸くんの部屋を訪ねると、ちょっと間を置いて蘭丸くんが顔を出した。
「葉月様、どうしたの?」
笑っているはずなのに、瞳に覇気がない。
…やっぱり元気ないな。
「あ、信長様にこっそり金平糖を買って来て欲しいって頼まれたの。
せっかくだし、一緒に城下に行かない?
蘭丸くんとお出かけしたいなって思って」
「それ…俺でいいの?」
「……?え?もちろん。だから、こうやって誘って…」
「秀吉さんの方がいいんじゃない?誘ってごらんよ」
「やだな、蘭丸くん。そんなことしたら内緒で金平糖買えないよ。信長様、食べ過ぎは秀吉さんに止められてるし。それに…」
私が慌てて捲し立てると、蘭丸くんが「…葉月様の好きな人って秀吉さんでしょ?」とぽつりと言った。
「え……」
「当たりでしょ」
「ち、違う…よ…」
「本当?」
綺麗な瞳で言い、薄く笑う蘭丸くんがいつもとはまるで別人に見える。
なんでそんなに哀しげに投げやりに聞くの…?
「蘭丸、くん…?」
「ごめんね。ちょっとこれから用事があるんだ。また今度ね」
「あ、うん。こちらこそ、ごめん」
私の前でゆっくりと襖が閉められた。
いつものように優しい笑顔のはずなのに、まるで心が込もってない蘭丸くんの顔に私はショックを受けていた。
なんだか…壁を感じた。
この襖みたいにゆっくり私の前で心を閉じているみたいな。
それに、出てきた秀吉さんの名前。
どうして急に、そんなこと…。
私の気持ちは誰にも言ってないはずなのに。