第46章 二色の瞳に嘘はつけない〜上杉謙信〜
「ダメです…謙信様。こんな所で」
「駄目なことなどない。お前が気持ちを隠していた方が罪深い。ずっと俺の気持ちを知っていて、なぜ黙っていたのだ」
だって、貴方は私の気持ちを知ったらもう帰してはくれないでしょう?
「このまま、お前を攫っていくぞ。二度とこの地に足を着けられると思うな。黙っていた罰だ」
「謙信様…そんなことしたら、無駄な争いが起こります。私は安土の人間なんです」
「この俺がその様なことを気にすると思うか?」
…思いません。
貴方はそんなことは気にしない。
いつだって信念が揺るがないこの人が、そうなるのはわかっていた。
でも、私だって心の何処でずっと願っていたのだ。
何もかも捨てて、謙信様について行きたいと。
越後に帰る背中を見ながら、ずっと。
ずっと、ずっと…。
そう、今だって。
また涙で溢れた私を、謙信様はきつく抱きしめる。
謙信様の匂いを肌で感じ、目を閉じた。
涙がはらはらと頬をつたっていく。
「泣くな。俺の見ていない所で二度と泣かしはしない」
そんな風に言ったら駄目ですよ…。
私の手が意思とは反してゆっくり伸びて、掴んでしまった。
貴方の背中を。
それに気づき、ゆっくり身体を離してくれる。
謙信様は私を見つめると、少し狂気染みた口元だけの笑みになり、直ぐに顎を掬った。
唇と唇が触れるか触れないかのところで止まると
「…俺の葉月。やっと手に入れた…」
そう言って、食べるように何度も口づけが降ってくる。
嬉しそうにそんな言葉を呟かれてしまったら、私はもう何も言えない。
私だって、欲しくて堪らなかったから。
一度だって貴方を友人だなんて思ったことはなかった。
本当は、ずっと好きでした。
貴方が私を好きになる前から…。
……だから、何が起こってもついて行きます。
二色の瞳に誓って。