第46章 二色の瞳に嘘はつけない〜上杉謙信〜
どんどん遠く、小さくなっていく。
謙信様の姿。
ずっとずっと見えなくなるまで、私は目を凝らして見ていた。
「〜〜…っ!」
声を殺し、私は顔を覆って泣いた。
次はいつ逢えるのだろう。
もしかしたらもう逢えないかもしれない。
しばらくそのまま、私はその場にしゃがんで泣いていた。
すると、急に辺りが暗くなり、誰かが私の前に立っているのに気づく。
顔を上げると、ただ黙って此方を見ている謙信様がいた。
その綺麗な二色の瞳は怒っているようにも、戸惑っているようにも見えた。
「謙信様…どうして?」
帰ったと思っていたのに。
謙信様は無言で私に手拭いを差し出していた。
私が受け取ろうと手を伸ばすと、謙信様はその手拭いを離さないまま私に向かって口を開いた。
「…葉月、いつからだ?」
「え?」
「いつから、その様に泣いている?お前はいつも笑って送り出すだろう。『お元気で』と言って…」
そうか…謙信様はやっぱり戸惑っているのね。
私はいつも誤魔化してきたから。
「自惚れかもしれん…だが、その様に泣くのは…俺のせいか?」
貴方のことは友人という態度を貫いてきた私が、こんな風に泣いていたから困っているのね。
私に問いかける謙信様の目の色は、真実を知りたい欲に塗れていた。
切なげで、苦しそうで…。
もう嘘を重ねることなど許されない。
「葉月…お前、俺を好いてくれているのか…?」
「は、い…。ごめんなさ…っ」
謙信様は私の言葉を最後まで聞かず、腕を引き寄せた。
こうなるのがわかっていたから、涙を見せずにいたのに。
私の気持ちに気づいたら、この人は人目も憚らずこうやって抱き寄せて、腕の中に閉じ込めて…二度と離してはくれないって。
わかっていたのに…。
でも…
ー…ずっとそうして欲しかった。
こうやって、謙信様に求められたいって。
きつく強く抱きしめて欲しいって願っていた。
そんな自分のことしか考えられない、浅ましい自分が嫌で堪らなかった。