第46章 二色の瞳に嘘はつけない〜上杉謙信〜
安土の国境にある橋の下。
空は高く、雲が遠くに両手を広げているように長くかかっている。
日が暮れる前の、まだ明るさが残っている時刻。
私と謙信様は、向き合って立っていた。
「また逢える日が楽しみですね」
「…そうだな」
「その時はもっと美味しい地酒のお店を探しておきますね」
「ああ、愉しみにしていよう」
薄く笑う、謙信様。
いつだって、そうやって愛おしそうに見つめてくれるから…離れがたくなる。
でも、私たちは友人だ。
時々こうやって仕事のついでに寄ってくれた時しか逢えない。
わかっているからこそ、切ない気持ちになってしまう。
謙信様は無口で、あまり多くを語らない。
でも、いつだって優しい眼差しで話を聞いてくれる。
現代での私の思い出話も理解しようと努めてくれて、私の全てを受け止めようとしてくれる。
そして、たまに見せる狂気じみた所も私は好きだった。
越後の龍、上杉謙信。
私は表面上の貴方しか知らなかった。
素顔を知れば知るほど、惹かれていく自分がいる。
でも、私は得意の作り笑いを浮かべ無邪気に手を振った。
「謙信様、お元気で」
「…ああ」
少し笑って私に視線を残し、すっと姿勢を伸ばし、歩いていく。
その様は無駄がなく、いつだって綺麗だ。
このまま消えてしまうなんて信じられない。
人間離れした美しさを持つこの人が、私と対等に話してくれて…こんな私を好きだと言ってくれた。
でも…その気持ちには応えられない。
この時代は、自由に恋が出来ない。
謙信様の元に行くのは、安土の皆への裏切り行為。
…許されないことだって、私だってわかっている。
それに、謙信様はあの容姿だ。
私じゃなくったって、他に良い人がすぐに見つかるだろう。
恋なんて一時の気の迷い。
きっと、謙信様だって目が覚める日が来る。