第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
[光秀side]
歩きながら泣く葉月を見ながら、不思議な感情が俺を包んだ。
哀しげにも幸せそうにも見える涙の前に、言葉が出ない。
こんな朝から、俺は何を喜んで小娘と手を繋いで歩いているのか。
俯瞰で見たら、そう感じるのに。
…葉月と一緒にいるだけで、満たされる。
このままずっと二人で歩いていたくなる。
そんなささやかな幸せを感じてしまい、胸が温かくなる。
闇を生きて、これからも生きていくであろう人間が何を言っているのかと思う。
だが、葉月が昨夜俺の前で泣いた時、何もかも放り出したくなった。
ー…… 『行かないで、光秀さん… 』
ぽろぽろと涙を溢して泣く葉月の姿が真っ直ぐに心を撃った。
手を伸ばし、掴みたくなった。
葉月との、これからの時を。
愛おしい。
その言葉が相応しいだろう。
葉月の悲痛な涙は、そんな感情を俺から引き出した。
以前から、この娘の想いはなんとなく気づいていた。
だからこそ、見て見ぬふりをして来たのだ。
それが、この有様だ。
…何をやっているんだろうな、俺は。
そんな自虐めいた笑いしか出てこない。
お前を背負って生きていこうと思っていたが、こうやって並んで歩いていく道も悪くない。
きっとどんな険しい道でも、葉月と一緒なら愉しみを見つけられるだろう。
そんな風にすら感じるから、不思議な娘だ。
「なあ、葉月。お前のこれからの時間を全て俺にくれないか…?」
立ち止まり、葉月の顔を覗き込む。
すると、瞳が揺れ俺を戸惑いながら見つめ返す。
何を言われているかわからない、そんな顔で俺を見る葉月が可愛らしくて思わず笑みが溢れる。
「…返事は気長に待とう」
そう言って歩き出す俺の手を、葉月が握り返した。
二人を照らす陽射しが柔らかく感じた朝だった…。