第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
「手を繋いで歩きたいです…光秀さんの御殿まで」
「そんなことで良いのか?」
「…はい」
私を下ろすと、すっと履き物を履かせてくれる。
「下駄も持っていたんですね」
「まあな」
私は光秀さんのつむじを初めて見た。
銀色の髪が揺れる。
光秀さんが跪いて履かせてくれるなんて、なんて贅沢な時間だろう。
もう褒美はこれで充分貰った気がした。
私は光秀さんの肩に手を置きながら、このまま光秀さんを抱き締めたくなる衝動に駆られてしまう。
…でも、出来なかった。
それはやり過ぎだもん。
抱き抱えられて、少し気が大きくなり過ぎてしまったな。
「さ、大丈夫か?歩けるのか?」
「はい…」
「どうした?照れているのか」
「…ちょっと」
「ほら…おいで」
光秀さんが差し出した手の上に、ゆっくり手を重ねる。
それだけで、死んでも良いと思えた。
太陽の下を、光秀さんと手を繋いで歩くのは私の夢だった。
叶わないと想っていたのに。
眩しい朝日が私たちを照らして、ただ、それだけで…涙が出た。
「二日酔いに朝日は沁みますね…」
私が涙を拭きながら言うと、光秀さんは「そうだな」と呟く。
それだけなのに、苦しい。
嬉し過ぎて苦しい。
ただ並んで歩いているだけなのに…こんなに幸せなんて。
この景色を、私は一生忘れないだろう。
二人で歩いた道を通るたびに、きっと思い出すんだ。
これからもずっと思い出せるんだ、光秀さんを。
胸に温かいものが込み上げてくる。
なぜかひどく恥ずかしくて、私は手を強く握れなかった。
代わりに私の手を引く光秀さんをそっと見つめる。
光秀さんの横顔が日に照らされ、一層綺麗だ。
でも、こんな姿はらしくない。
こんなにもらしくないことをしてくれた、光秀さんに感謝した。
そんな光秀さんの長い指が私の手を包んでる。
自分の手が、この時間が愛おしい。
時が止まって欲しいと強く願ってしまう。
そんなことは叶わないのに。
光秀さんの進む道に、私は行けないだろうから。
どうか、この人の歩く道を照らして下さい。
……道を間違えずに光秀さんが帰って来れるように。