第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
光秀に抱き抱えられ、顔を真っ赤にしている葉月と愉しげな光秀を見送りながら、家康は昨夜のことを思い出していた。
……ー「光秀、これはどういうことだ。お前らは深い仲だったのか」
そう静かに聞いた信長に、光秀は葉月を抱き抱えながら「はい。見ての通りです」としっかりと答えた。
「葉月とは想い合っておりました。報告が遅れて申し訳ありません」
光秀の突然の告白。
皆が驚いて黙ると、信長はふっと笑った。
そして、頷き…「そうか」と答えると、「光秀、明日からの視察は延期だ。五日ほど休め。葉月の相手でもしてやるんだな」と、言って部屋に戻ってしまったのだ。
…その時、一瞬だけ光秀の目が輝いたのを家康は見逃さなかった。
本当にあの子と光秀さんは深い仲だったのだろうか?
そんな感じが一切しなかったけど。
光秀さんのことだ。
この機会を利用したとしか思えない。
でなきゃ、わざわざ宣言などしないだろう。
葉月の目が常に光秀を追いかけていたのは、知っている。
葉月が誰を想っているかなど、誰も口には出さないだけで周知の事実だった。
…それをあの光秀さんが気づいていなかったとは思えない。
「葉月…あの様子じゃ、このこと聞いたら驚くだろうな。ま、俺には関係ないけど」
そう口にしつつも、面白くない家康は大きくため息をつくしかなかった。