第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
「秀吉さん、私にもお酒入れて〜」
徳利が空になった私は、秀吉さんを呼んだ。
「葉月が?珍しいな。よし、飲め飲め」
「あんた、大丈夫なの?」
「大丈夫だもーん」
「葉月様、もうすでに顔が赤らんでますが…。何か召し上がりますか?」
秀吉さんが私にお酒を注ぎ、家康が怪訝そうにそんな私を見る。
三成くんが私につまみを探してくれている横で、私はまたお酒を飲み干した。
その時、ちょっと遠くにいる光秀さんが視界に入った。
いつものように、するすると静かに飲む姿が様になっているな。
私の方を見ようともしない。
そんな光秀さんがらしくて、ちょっと笑った。
「じゃあ、信長様にお酌でもしようかな…」
「えー、葉月様。大丈夫?俺が行こうか?」
「蘭丸くん、私なら大丈夫だよ〜」
「だって、脚がふらついてるよ?」
「平気平気〜」
蘭丸くんの心配を他所に、私はまた進もうとすると誰かにお酒を取り上げられる。
振り向くと、いつの間に光秀さんが後ろにいた。
気づいたら私の腕を掴んでいたので驚く。
いつも通りの冷ややかな顔をしているのに、目の奥に少し怒りが見え隠れしているように見えた。
「やめておけ。お酌なら俺がする」
「…光秀さん」
光秀さん、私…本当は…。
光秀さんの姿を見ているだけで鼻の奥がツンとなり、涙が出そうになる。
すると、ぐらっと急に世界が真っ逆さまになり、視界が真っ白になった。
「あ、葉月様っ!」
蘭丸くんの声が遠くに聞こえた気がした。
ー……何処かに行かないで、光秀さん
私を置いていかないで
…意識を手放す前。
私を受け止めてくれる両手が一瞬、見えた気がした…