第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
今日は、久しぶりに帰ってきた光秀さんを囲んでの宴会となった。
私は宴会という名の飲み会の類いは全て苦手だ。
酔っ払いも、お酒も得意ではない。
でも、この安土城にいるみんなのことは好きだから、楽しそうにしているのを眺めるのは嫌いじゃない。
むしろ好ましく思うくらいだ。
この時ばかりは、今が乱世であることも忘れてしまう。
賑わっている姿はみんな笑顔だから、ずっとこのままなら良いのにと思ってしまう。
特に今日は…光秀さんがいるから。
明日にはまた居なくなってしまうから。
話せなくても良い。
こうやって元気な姿が見られるなら、私は恋仲になりたいなんて望まないから…ずっと此処に居てくれないだろうか。
また何日も逢えないなんて…。
考えたくなかった。
ぼんやりしていた私の目の前に徳利を揺らす、慶次がいた。
「お前、酒でも飲むか?」
「…あ、慶次。ううん、いらない。お酒弱いし、すぐ気持ち悪くなる体質だから。ご迷惑でしょ」
「そんなに落ち込むなよ、光秀なら元気に帰ってくるだろ」
「…えっ、なに急に」
「やっぱりな。悟られたくないなら、もっと上手く演技するんだな。下手くそか」
私は慌てて、小声で慶次に耳打ちする。
「……ねえ、誰にも言わないでね」
「んなもん、言わねーよ」
「ありがとう。はあ、私も慶次みたいに芸達者になりたいな」
「はっ。何言ってんだよ。お前はそのままがいいんだから」
「そうかなぁ。慶次に良い女の演じ方を教わりたいな」
「まあ、知りたいなら俺が指南してやってもいいけど…」
「本当に?!じゃあよろしくお願いします!かんぱーい」
「あ、おい…。お前、それ酒だぞ」
私はぐびぐびと勢い良く、目の前にあったお酒を飲み干す。
…飲まなきゃやってられない。
このまましんみりしていたら、私の気持ちが慶次以外にも気づかれちゃうもん。
喉の奥から熱くなっていくが、そんなことお構いなしに私はまたお酒を口にする。