第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
軍議中、どんなに光秀さんを見ても一切目は合わなかった。
「…以上だ」
軍議が終わり、私が前を向くと光秀さんがやっと此方を見た。
こうやって目が合っても、光秀さんはただ口元で笑うだけ。
貴方からは話しかけてはくれないのね。
私から話しかけに行くのは勇気がいるのに。
いつだって自然に話しかけるにはどうしたらいいか、一回頭で考えて。
話題を無理くり引っ張り出して。
笑顔を浮かべて側に寄っていく。
この時ばかりは、これ以上ないくらいに私の鼓動は煩くなる。
「光秀さん、お元気ですか?」
結局、手紙の出だしのような言葉しか出てこなかった。
光秀さんは此方を見ると、意地悪く笑う。
「ああ、元気だ。…どうした。そんなに俺に逢いたかったのか?」
「なっ!ち、違います」
ズバリ言い当てられ、私は息が止まりそうになった。
みんなの前でこの人は何を言ってるんだろう。
いつもの揶揄いだとはわかっていても、動揺を隠せない。
「お変わりなさそうで、良かったです」
「ああ、お前も。な・に・も変わりなさそうだな」
「む…っ。今のは嫌味ですね?」
「ほう。ささやかな頭でもわかるようになったのか」
「…ひどいです」
「くくく。お前は相変わらず良い反応をするな」
こんなやり取りでも、私にとってはとても幸せで思い返してしまうくらいだなんて…この人は知らないだろうな。
「今回は長く居られるんですか?」
「いや、また明日には仕事で遠方へ行く。また暫くは帰れないかもな」
「…そうですか」
明らかに悲しげな声を出してしまった私に、また光秀さんは口の端を上げて「そんなに俺がいないと寂しいか」と笑いながら言う。
…そうですよ。
当たり前じゃないですか。
「…無事に帰って来て下さいね」
「そんな顔をするな。大丈夫だ。…またな」
そう言って、私の頭をぽんぽんと撫でると去って行った。
私は胸が詰まる。
誰か助けて。
苦しくて、辛い。
…私を救い出せるのは光秀さんしかいないのに、また何処か遠くへ行ってしまうのね。