第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
「おい、光秀!久しぶりだな」
廊下を歩いている時だった。
遠くから政宗の大きな声が聞こえて、走り出したい気持ちを必死に抑えて私は大広間へ行く。
…今日、逢えるってわかっていたらもっと可愛くして来たのに。
そんな小さな後悔をしながらも、逢える喜びで胸がいっぱいになる。
大広間に入ると、政宗に絡まれながらも、いつものように渇いた笑顔を浮かべる光秀さんを見つけた。
ああ、光秀さんだ。
いつぶりだろうか。
ときめきを感じながらも切なさからなのか、心臓を鷲掴みにされたみたいに急に苦しくなる。
私は離れた場所でそっと見守っていると、次々と人が集まりあっという間に光秀さんは見えなくなった。
…私も話したいな。
でも、なんて話しかければいいだろう。
こういう時、何も考えずに『お久しぶりです、光秀さん!』と無邪気に行けない。
意識し過ぎて照れくさいのだ。
光秀さんからは話しかけてはくれないから、望むだけ虚しいだけ。
いつだってすれ違い様にしか声を掛けてくれないもの。
眼中にないのか、興味がないのか。
光秀さんの中での私の位置付けは、その程度なのだから仕方ない。
「おい、葉月。何を惚けている」
「あ、信長様。すみません。邪魔でした?」
「いや。皆揃っているな。始めるか」
光秀さんと一言も交わせないまま、軍議が始まってしまった。
私は気づかれないよう、そっと光秀さんを見た。
いつも表情からは何も掴めないが、誰も近づかせないような雰囲気は健在で私は少しほっとする。
このどこか遠くにいる感じ。
光秀さんらしくて、好き。
軽々しく近づけない、あの感じ。
どうか、誰もあの人の懐に入ってきませんように。
女性の影がこれからもないよう、私はそっと祈った。