第42章 どこか遠くに行く貴方へ〜明智光秀〜
ー……『もう、どこにも行かないで』
どんなに心で想っていても、口には出せない。
決して振り返らない。
此方を見ようともしない。
私の知らない何処かへ行く、そんな貴方の後ろ姿をただ眺めるだけ。
いつだって、私は一生懸命に光秀さんを目で追いかけているというのに。
ー 光秀さんが視察に行ってから何日か経ったある日。
今日の軍議には、きっと顔を出してくれるはず。
久しぶりに逢えるかもしれない、そう思って私はお気に入りの紅を引いて可愛い柄の着物を着てきた。
…でも、光秀さんは軍議が始まっても姿を見せなかった。
信長様が秀吉さんに「…光秀は?」と聞いた時、私も耳を少し大きくした。
「はっ。伝達が遅くなり申し訳ありません。まだ戻れない…と。今日は顔を出せないそうで御座います」
「そうか」
秀吉さんが頭を下げて告げると、信長様は小さく頷き軽く流す。
今日も逢えないだなんて。
…がっかりという言葉では足りないくらい、ショック。
張り切ってお洒落をした分、私の心は大きく落胆した。
でも、今は軍議中だ。
この想いは顔に出してはいけないという…軽い拷問。
秘めた想いは誰にも悟られたくはない。
私は努めて、平然とした顔をした。
そうするしかなかったから。
それでも、まつ毛を伏せてしまう。
目は口ほどに物を言う。
私の今の姿は、正にこの言葉がぴったりに違いない。
そして、その日はいつも以上に上の空のまま軍議が終わった。
…次の日も、光秀さんは姿を見せなかった。