第41章 恋の病にかかったら〜石田三成〜
もっと面倒なのは、それを言えないってこと。
わざわざ、こんな夜遅くに来たというのに、私は三成くんの自室の前で悩んだまま動けずにいた。
三成くんの自室の前で暫く立ちすくんだ後、結局声をかけるのを止めてその場に座り込んだ。
襖に背をもたれ耳を澄ますと、シーンとした部屋から微かに紙を捲る音がする。
あ…三成くん、読書中かな。
それか書き物?
わからないけれど、三成くんが何をしているか想像するだけで幸せな気持ちになれた。
ただその音を側で聞くだけで安心した。
…邪魔はしたくない。
でも、三成くんの存在は感じたい。
私は暫く目を瞑り、膝を抱えたまま三成くんの部屋から感じる音に耳を傾けていた。
「……ハックションっ!」
しまった。
つい出てしまったくしゃみに慌てていると、急に襖が動き、ずるっと私は横に倒れた。
「葉月様」
「あ、三成くん…」
「どうかされました?」
「えーっとね…」
なんと答えよう。
なんだか恥ずかしくなり、笑って誤魔化す。
でも、三成くんは私の笑顔に誤魔化されたことなどない。
それを忘れていた。
三成くんは私の側に跪き、澄んだ目で私を静かに見つめた。
先生に注意された生徒のような気持ちになる、三成くんの瞳は。
そう、まるで見透かされているような…。
「葉月様?」
「はい…」
「どのくらい前から此方に?」
「あ、今さっき…」
「本当ですか?」
「…より、前だね。えっと…」
三成くんは流れるような仕草で私の手を取ると「…冷たいですね」と哀しげに呟いた。
その一言だけで、私は胸が詰まった。
少しでも嘘をついてしまったことが、後ろめたくなったのだ。
「ごめん、だいぶ前からいたの。夜も遅いし、三成くん読書中かなと思って…邪魔したら悪いかなって」
「声を掛けて下されば良かったのに…」
「本当にね。あはは」