第40章 続・待ち合わせは、時間通りに〜武田信玄〜
「………食事よりも君を味わいたくなってしまったな」
「…え?」
葉月の耳に聞こえるか聞こえないかくらいの微妙な声音で、俺は呟いた。
俺と天女には、まだ男女の秘事はない。
そうしようと思えばいつでも出来た。
手を出そうと思えば出せたが、出さなかった…歯止めが効かない自分を容易に想像できたからだ。
葉月は可愛い。
目に入れても痛くないくらいには。
でも、まだ余裕があるのは一線を超えていないから。
まだ自分のものではないからこそ、歯痒く愛おしく可愛いと純粋に愛でることが出来るというものだ。
それなのに、あんな姿を見せられたら抱きしめるのを我慢するのが精一杯だ。
あの、待ち合わせ前の葉月の挙動不審な様といったら。
思い出しただけで頬が緩む。
身体中から緊張と期待と喜びが溢れ出ていた。
いつも俺の前でははにかむことしかしない葉月の、あまりにも余裕のない姿に心打たれた。
…もしかして、葉月は俺が思っているより好いてくれているのではないか?
そんな風に自惚れてしまうくらいには、彼女の姿は意外で愛らしかった。
楽しみにしていてくれたのだろうか。
俺との逢瀬を。
もしかしたら、想像よりずっと…。