第39章 待ち合わせは、時間通りに〜武田信玄〜
逢瀬の際に手土産を持たせるなど、なんと手慣れていることか。
嬉しいのに素直に喜べないのは、他にも私のような女性がいるのかもしれないと思うから。
信玄様にとって、私はただの可愛い女の子。
その可愛いは年下で、自分を好いてくれている子なら誰でも当て嵌まる。
…私は、そういう意味で可愛いのだ。
私以外にもいるであろう、そういう女性たちがまるで見えるようで、落ち込む。
地方地方に散らばっているのかな、楽しく食事する可愛い子たちが。
それがわかっていても自分だけは特別かもしれないと、その子たちも心を躍らせているのかもしれない…私のように。
「…ありがとうございます」
私は土産を受け取りながら、そんな風に思っていた。
もっと何も考えずに喜びたい。
すぐ後向きに考えてしまう、そんな自分に疲れる。
ふと視線を感じて顔を上げると、微笑みながら信玄様が静かに私を見つめていた。
何も言わずにこちらを見ている理由がわからず、私は首を傾げた。
そして、煩いくらいに高鳴る心臓を感じ戸惑いながらも信玄様を見つめ返すと、あっという間に顎を掬われる。
「今日も可愛いな、俺の天女は」
吐息が掛かるくらいに顔を近づけながらそう囁かれ、口づけされるのではと私は焦った。
みるみる顔が赤くなっていくのが、自分でもわかる。
余裕の笑みを浮かべると、信玄様は首を少し傾げながら揶揄いを含ませて言った。
「…そんなに俺に逢うのが楽しみだったのかい?じっと待てないくらいに」
「えっ!!見ていたのですか?!」
「いや、見かけたのさ。店を除きながらも忙しなく動いているから、笑ってしまったよ」
「…う。やだ、もう。声掛けて下さいよ」
あんな姿を見られていたなんて、もう恥ずかし過ぎて顔を覆いたい。
そんな私の反応を愉しげに眺められていたとは。
信玄様には、敵わないな…一生。
対等な立場にはなれそうもない。