第39章 待ち合わせは、時間通りに〜武田信玄〜
駄目だ。落ち着かない…!
陽射しは暖かいが、風の冷たい冬の日。
城下に来ていた私は、自分の心臓の音を鎮めようと、その辺りをぐるぐる歩き出した。
行く宛もなく、ただ、足が私の意思とは反して進んで行く。
信玄様との待ち合わせには、まだ時間がある。
自室にいてもそわそわして気になってしまい、早く出てきてしまったけれど…これは早過ぎた。
とにかく、私は今、じっとしていられないのだ。
夕暮れ時の待ち合わせだから、信玄様は未だに決まっている。
わかっているのに、立ち止まれない。
もうどうにかなってしまいそう。
……誰か私の肩を叩いて大丈夫だよ、と言って欲しい。
もう口から心臓が飛び出して来そうだ。
こんなに来る日も来る日もこの日を楽しみにしていたのに、当日になると、どうしてこんなに鼓動が速まって息苦しくなるのか。
信玄様と会える日なんて少ないし、過ごせる時間も短い。
だから、今日が終わったらまた逢えなくなる。
…もう、別れを考えてしまい寂しい。
私が安土城の人間だから、仕方ないのはわかっているけれど。
嬉しいと寂しいが一緒に襲いかかってくるから、逢瀬の時の私の挙動不審ぶりは凄まじい。
誰にも見せられない、滑稽な姿だ。
でも、これこそ恋する姿でもある。
「さすがに歩き疲れた…」
逢瀬の前に何をやっているのだろう。
こんなに体力消耗させるまで、歩き回った私は間抜けでしかない。
でも、やっと夕日が傾いて来た。
ああ、やっと逢える。
私の脳裏にはもう、私を見つけて微笑みながら手を上げている信玄様が浮かんでいた。
私はずっとこの日の為に生きてきたと言っても過言ではない!
私は待ち合わせ場所に小走りで向かった。