第38章 君と雨の日に〜徳川家康〜
「また、雨か…」
葉月と出掛ける日は雨ばかりだ。
でも、なぜこんなに胸が温かくなるのだろう。
恋仲になって、半年か。
「葉月、もう雨が降るとさすがに寒いね。出掛けるの、やめない?」
「えっ…」
…そんなあからさまにがっかりされると、行かずにはいられないよ。
仕方ないな。
「わかった。行こう」
「本当?!家康、大好きっ!」
「…はいはい」
調子が良いよな、全く。
「ちゃんと暖かくしなよ?風邪引かないように」
「はーい!」
…本当にわかってるのかな、この子は。
溜め息をつきながら、俺はちょっと笑う。
そして、葉月の手をそっと繋いだ。
まだ俺は、この子が急に消えてしまう気がして繋いでいないと不安で堪らなくなる。
……そんなことは、決して口には出せないが。
俺の傘に入り、当たり前のようにくっついてくる葉月が可愛い。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか楽しそうに言った。
「家康、明日はお誕生日だね。おめでとう」
「…言うの早くない?」
「だって、一番に言いたくて」
「はいはい。ありがとう」
「もうっ!言い方っ」
…嘘だよ。
そんな風に言われて嬉しくないわけがない。
でも、素直になるのは難しいな。
「…葉月」
優しく名前を呼ぶと、傘で隠して俺は口づけた。
「ありがとう」
来年も一緒にいてくれたら、何もいらない。
俺の隣で、ずっと…。