第38章 君と雨の日に〜徳川家康〜
俺はゆっくり唇を離すと、事態を飲み込めてない葉月を見てクスッと笑う。
「…だから、口閉じなよって言ったのに。馬鹿だな、葉月は」
「家康怒ってるんじゃないの…?どうして…」
「怒るわけないでしょ。だって、あんたが好きなんだから」
「え?!」
「…気づかなかったの?」
「だって、友達としか見られてないのかと」
…それはこっちの台詞だよ。
まあ、いいや。
俺は葉月に向き直ると、葉月の両手をそっと掴んだ。
「好きなんだ。だからお願いだよ。帰らないで」
あんたの大事なものを残したままなのは、悪いと思う。
乱世なんかにいるより、帰った方が葉月の為だとわかってる。
でも、俺にはあんたが必要なんだ。
俺が創るから…葉月が安心して暮らせる平和な世を。
あんたが側にいてくれたら、きっと頑張れるから。
何年もかかるかもしれないけれど、必ず実現させるから。
葉月が幸せになれる未来を。
…まだ、口には出せない。
大き過ぎる夢だから、いつか伝えられる日まで待ってて欲しい。
「俺と…一緒に生きてくれない?」
これが今の俺の精一杯。
「…うん。生きていく…生きていきたい。だって、私…本当は帰りたくないの。家康とずっと一緒にいたかったから…」
俺たちは雨の中抱きしめ合って、口づけた。
たくさんの雨が僕たちを祝福してくれるかのように、優しく落ちていく。
俺の心の中まで、雨が溜まっていくかのようだ。
ドス黒かった俺の中にまで、たくさんの水で満たされ闇が薄れていく…。
「葉月、やっと手に入れた…」
どうか、やまないで。
どうか…このままで。
強く強く、葉月を抱きしめた。
もう二度と、何処にも行かないように。
何処にも行けないように。